正式な賃貸
法的な解釈と、世間一般の常識との間には多少ズレがあるようだ。
たとえば、無免許業者は無免許なんだから報酬を受け取ればそれだげで即、「お縄」のようにも思えるのだが、判例はそうはいっていない。
この点は無免許のタクシー、いわゆる白タクを例に考えてみるとわかりやすい。
白タクは道路運送法違反になるわけであるが、利用者が白タクと知って乗りまわしたうえに、支払いのときになって違法行為を理由に料金の支払いを拒否した場合、いちがいに利用者が正しいとはいいづらい。
無免許業者と報酬請求権との関係も似たようなもので、業者がたとえ無免許であろうと報酬を受け取ること自体は違法行為ではないし、不当な利益ではないというのが判例なのだ。
ただし、払え、いや払わないというような紛争が起きた場合、無免許業者が報酬を請求して裁判所に訴えたとしても認められる乙とはない。
考えてみれば当たり前のことだ。
無免許営業について刑罰をもって禁止しておきながら、その一方で無免許業者のために利益を確保するような判決が下るわけがないのである。
この独特の性格を持つ報酬請求権は、法律の本をひもとくと、「自然債務」と呼ばれている。
聞き慣れない言葉だが、普通の債務と、債務がない場合との中間にあるようなものだと思えばわかりやすい。
つまり、普通の債務であれば裁判でもちろん請求できるし、債権者が債務者を被告として訴えることもできるわけだ。
またその反対に、債務がなければ、支払ってしまった報酬にしても後から不当な利益の取得として取り戻すことができる。
ところが無免許業者の報酬請求権は裁判上では請求できないが、受け取っても不当な利益の取得にはならない。
つまりモメたら取れる保証はないけれども、いったん受け取ってしまえばそれを強制的に返還させられるリスクもまたないのである。
現実には手数料報酬について、買い主や売り主といった依頼者からの「取りっぱぐれ」を恐れるというよりも、業者間での分け前にありつくときに不利な立場に立たされることを恐れている業者が多いようだ。
一つの不動産取引に、複数の業者がかかわることは多い。
成約の暁には報酬の分け前の配分について業者間で話し合いが持たれるのだが、その際、免許がないとなにかと負い目を感じてしまうというのがモグリ業者の手前勝手な言い分なのである。
堂堂と業者としての分け前を主張したいという無免許業者が多いことから、見かけ上業者になりすまそうとするモグリの生息するところとなり、その手段として違法であるニセ不動産屋の化砂の皮をはぐ名義貸しという行為がはびこっているのだ。
もう一つのパターンの名義貸し、つまり、業者としての免許を貸すのではなく、取引主任者という資格を貸し出すという場合は、また様子がちがってくる。
不思議なことに、不動産業界では、業者免許の貸し出しには負い目を感じてこっそりと裏取引をするのに、この資格の貸し出しについては、まったく罪の意識を感じていない人が多いのだ。
「宅建の資格?今は細かいお金もパカにできないから、ある不動産屋に貸してます。
月々の小遣いくらいにはなりまずから」「いいですねェ、今度、借りたいっていうウマい話があったら、ぜひ私にも教えてください」このように業者の会話にはまったく悪びれたところがない。
それにしても現実になぜこう資格の貸し借りが横行しているのかというと、それは皮肉なことに、昭和六三年二九八八)に法的な規制が厳しくなったからといえなくもない。
つまり宅建業法の第一五条一項及び宅建業法施行規則第六条の三にあるように、宅建業者は事務所については業務に従事する者の数の五分の一以上の数を、案内所等(具体的には新築マンションなどの現地販売センター等)については、一名以上の専任の取引主任者を置かなければならないとされている。
業務に従事する者といっても、実際に客の応対にあたる営業部員だけでなく、運転手や守衛といった取引に直接関係がない職務にあたっているような人まで勘定に入るということだから、この割合は業者にとって楽な数字ではない。
「専任の」というからには事務所に常勤して「専ら」取引業務に従事する、つまり、毎日通勤して不動産取引一筋という人が規定人数以上いなくてはならないのである。
それまでは一O人に一人の割合でよかったのが、昭和六三年の第一O次宅建業法の改正で五人に一人の割合というように改められた。
この改正によって当時、パニックに陥った不動産屋は多かったようだ。
急に割合を増やされても現実に社員で有資格者の人数はかぎられている。
今年は足らなくても、来年試験に受かって資格者が増えて足りるようになるかというと、そんな保証などどこにもない。
毎年受けては落ちている営業マンが社内にはゴロゴロしているのだから、甘い期待などできるわけがなかったのだ。
そこで考え出されたのが、取引主任者から資格を借りるこの名義貸しという手口なのである。
この不況で不動産屋からはもう足を洗おう。
だからといって、せっかく取った資格をそのまま埋もれさせてしまうのはもったいない。
元業者である有資格者と、資格者を増やさないことには営業を継続できない業者との利害が一致して、資格の名義貸しとなったのである。
不況のあおりで退職した有資格者が、資格だけ元いた会社に有料で貸しているというような話もある。
資格貸出料金は、景気にも左右されてはいるものの、一月おおよそ三万1五万円というのが相場らしい。
資格だけ提供して小遣い稼ぎをしているのは「元不動産屋」だけとはかぎらない。
もともと試験には合格していたけれども、実業では生かす場がなくて宝の持ち腐れという人も世の中には多いからだ。
建設省の統計によると、平成一二年(ニOOO)三月で取引主任者の登録者数は約六五万人、そのうち実際に宅地建物取引業に従事しているのは約二五万人と推定されている。
つまり、残りの約四O万人は資格は持っているけれども実際には使っていないペーパードライバーなわけだ。
たしかに宅建業法の第一三条は、業者としての免許の貸し出しを禁じているだけで、取引主任者の資格の貸し出しは禁じていない。
けれども、他人に取引主任者の名義を貸した場合、都道府県知事の監督処分の対象となることは、宅建業法の第六八条に明記されている。
「一年以内の期間を定めて、取引主任者としてすべき事務を行うことを禁止することができる」いわゆる業務停止というものだ。
さらに同法第六八条には、情状が特に重い場合においては登録を消除する、とまで書かれている。
罰せられるのは貸したほうだけではない。
借りた業者が、専任の取引主任者の不設置の罰則(宅建業法第一五条三項)に問われることは明らかだし、そうなるとさらに貸したほうは貸したほうで、刑法第六二条によって法律違反に加担した共犯者とされる可能性もきわめて高いのである。
事実、民法の第七一九条を適用して、資格を貸したほうも共同して不法行為をはたらいたとして責任を追及した判決もある。
無知な客にはやりたい放題。
このように結構重い処分があるにもかかわらず、現実に名義貸しは横行している。
なぜだろうか。
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